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Selfishly

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金猫の恩返し Off本版1章

   


  ~『金猫の恩返し』~
        OFF本版 第1章



   東方司令部では子猫を飼っている。
  気まぐれで、我侭で、高慢な、
  不定期通いの綺麗な金色の子猫だ。

  主に対して、忠誠心が薄く(猫だから)
  気が向けば擦り寄ってくるが、
   大概は、唯我独尊、傍若無人(猫だから)
  
  そんな子猫なのに、
   皆に愛され、可愛がられているのは、
  やっぱり可愛らしい処があるからだろうか…


  

         ロイ・マスタングのある日の感想




   一章  ~飼い主の奇行 ~

 ハボックは、目の前に立ち止まる上司の後ろで、何度目かの
呆れのため息を吐き出す。
「大佐~、またですかぁ?」
 急かされる様に焦れた声音に、ロイははっと気を取り戻して、
何事も無かったように歩き出し、その場を離れる。
 漸く本来の本分を思い出してくれた上司に付き従いながら、
ハボックは浮かんでくる疑問に首を傾げる。
 最近、上司のロイは家具屋や寝具屋の店やコーナーに来ると、
暫くは立ち止まったままになるのだ。
 最初は、新しい家具でも欲しいのかと思っていたが、付き合って、
熱心に眺めている視線の先の物を確認するたびに、
どうにも不思議に思えて仕方ない。
 ロイが熱心に見ている物は、些かロイには不釣合いな物ばかりなのだ。
 本人が使うなら、何と言うか、もう少し大き目の物が使い勝手が良さそうな気がする。 
あんな、少々小ぶりなサイズでは、寝れない事はないだろうが、
窮屈ではないだろうか?
 そんな事を思い浮かべながらも、余計な口は挟まずに、再開された査察に付き従っていく。

 『また、やってしまった・・・』
 背後のハボックの怪訝そうな気配を感じながら、ロイは内心でこっそりと嘆息を付く。
 意識的に行っているわけではないから、余計に性質が悪い。
気づけば、熱心に検分していて、今のようにハボックや、
店の売り子たちに声を掛けられてから、自分が眺めていた事に気づくのだ。
 が、別にそこまで自分が気にかける必要は無いのだと、
その度に思い直して離れるのだが、ふと気が付くとまた同じことをしている自分がいる。
「はぁー」
 今度は、実際にため息を吐き出す。
 別に、買っても構わないのだ。 それ一つ買ったからと、
ロイの懐が痛むほど給料が安いわけではない。 
逆に、かなりの高給取りなのだから。
 なら、置き場所に困るのかと言えば、そんな事も全く無い。
家には使われてない部屋が、わんさかある。
 では何故、こうも躊躇い、二の足を踏んでいるのかと言うと、
それはロイには必要ないものだから。 それ一点だ。

 ロイが最近、熱心に検分しているものは、シングルの小ぶりなベットだ。
 ロイが使うには、少々手狭で、しかも自分の趣味には沿わない。
 家で自分が使用しているベットは、快適な安眠を提供してくれる
保障バッチリの広々としたベットだ。
 特に誰と使う目的があっての事ではないが、家に帰るのは寝るためだけと
断言出来るような生活では、せめて眠るときくらいは快適でありたいと、
寝具には贅沢を凝らしている。
 そんなロイだからこそ、自分が眺めているものの無価値さは良くわかっているのだが、
どうにも目が付いて仕方が無い。
 そこまで気になるのなら、じゃあ買ってしまえば良いじゃないかと思う気持ちも、
不要だと思い切る時に、必ず頭の隅で囁いてくる。
 が、一番の最大の躊躇いは、『どういう理由で』という事が、
ロイの中で引っ掛かっている事柄だ。
 買う金にも、置く場所にも困らない・・・困らないが、買う理由が
見つからないのだ。
 或いは、そこまでする必要性が、本当に自分にあるのか、だろうか。
 
 ロイが熱心に見ている物は、たまたま気まぐれに部屋に上げた人間の為のものだ。 
そして、その人物は不定期にしかロイの前に姿を現さず、
必ずロイの家に来る客人と言うわけでもない。 
 そして・・・、今後来てくれるかも判らないのだ。
 そこまで考えて、自分のおかしな思考に気づく。
『来てくれるか? 違うだろう、来るか、だろうが・・・』
 微妙なニュアンス程度の違いだが、内容は大きく変わる。
『来てくれるかでは、まるで自分がそれを願い、
歓迎しているみたいじゃないか・・・。 』と気づいて、憮然とする。

 ロイが先ほどから思い浮かべている人物とは、ロイが推挙し後見人を務めている少年、
鋼の錬金術師ことエドワード・エルリックのことだ。 
 過去3度、ロイは偶々エドワードを家に泊まらせている。
 自分の家に、自分自身が帰るのもままならない彼にとって、
他人など呼ぶ暇も無ければ、招待する気もサラサラない。
 だから、エドワードを家に上げたのは、本当にたまたま、
偶然であって、本意ではないのだ。 少なくもと、意識的にはそうなのだ。 が、どうにも妙に頭の隅に引っ掛かっていては、そういう物に意識が行ってしまう。
『まぁ別に、一台位あっても構わないがな・・・。
 もしかしたら、誰かを呼ぶ事もあるかも知れないし、その時の為に・・・』
 そんな風に目的を摩り替えて理由をこじつけるから、
ロイの最近の妙な行動が治まる事がないのだが、本人はそれには気づいていない。  
それに、本当に招待をする為に必要なら、もう少しサイズ的に広い方が、
ロイの交友関係では役にたつだろうに。 少し冷静になれば、
わかりきったようなものなのに、変わらず思考が廻っては、
堂々巡りしている最近のロイなのだった。



「ただいま戻りました~」
 査察から戻り、ハボックがやれやれと言う風に声をかけて、部屋に入っていく。 
「お疲れ様でした」
 ハボックと、主に後ろから入ってくる上司に、労いの声をかけて出迎えるのは、
副官のホークアイだ。
「ああ。 何か変わった事はなかったか?」
 自分の執務室に戻る前に、定例の確認を口にする。
「はい、特に現在は御座いません。 ただ・・・」
 言葉が止まったことに、ロイは怪訝に思って視線を向ける。
と、優しい表情で小さく微笑んでいる彼女の表情に、羽織っていたコートを
脱ぐ手も止まって、思わず凝視する。
 そんなロイの小さな驚きを察したのか、失礼しましたと表情を改めて、
報告の続きを伝える。
「エルリック兄弟から連絡がありまして、明後日にこちらのイーストに
立ち寄るそうです」
 そう語る彼女の表情は、見慣れたポーカーフェイスに戻っていたが、
柔らかな口調がそれを裏切っている。
「鋼達が・・・」
 成る程と思いながら、伝えられた内容を確認するように
繰り返す。
「はい。 丁度、冬の間中行けなかった北方の確認が、一段落したらしく、
暫く情報を整理するのに戻ってくるようですよ」
 彼女が彼らに好意を抱いているのは、その話し振りからも伝わってくる。 いつもなら、規律と締め切りに厳しい筈の彼女なのだが、彼らに関しては、
その基準が大幅に緩められているのが、自然と砕けた口調になっている事でも判明できる。
 その報告に、ロイは数瞬考えを巡らせてから、「わかった」と頷き、
自分の執務室に入っていく。
 思ったより素っ気無い態度の上司に、リザが小さく首を傾げて、
部屋に戻っていくロイを見送る。
 普段なら、彼らの帰還を伝えると、何だかんだと憎まれ口を利きならも、
嬉しそうな反応を垣間見せてくるのに、今日は酷くリアクションが
少なかったのを不思議に思ってみたが、それは別段杞憂する事もなかったのだと、
その後のロイの仕事振りで納得した。

 定時を少し廻った頃に、珍しく業務を終わらせた上司が、リザを呼んで、
決済済みの束を渡してくる。
「本日分は以上で大丈夫だな?」
 重みのある束を受け取りながら、内心の驚きは一欠けらも表情には出さずに答える。
「はい、本日までに必要な分は以上で結構です。 が、その他のものも、
期日が迫っているものが多いのですが?」
 暗に、今日分だけで帰るなと伝えてみる。
「わかっている。 それは、明日には必ず終わらせる。
 ので、今日はこれで帰らせて貰う事にしたいのだが」
 伺うようには聞いてくるが、既に帰り支度を始めているのでは、
引き止めることも出来ない。 リザは諦めて、了承と、
そして念を入れておくだけで済ませておく。
「わかりました、大佐がそう保障して下さるなら。
 では、必ず明日には、近日中の必要な決済分は早めして頂ける様に、
お願い致します」
 エドワード達が帰ってくると言うのなら、リザも彼らに付き合う時間を
欲しいと思う。 その為には、この上司に、溜め込んでる仕事を片付けてもらわない事には・・・。

「ああ、明日は早めに出てきて、君が必要と思う分まで、
きっちり片付けさせてもらうよ」
 珍しく快諾の返答をしては、サッサと身支度を整えては、
「じゃあ」の短い一言で、司令部を出て行った。

「どうかしたんですか、大佐?」
 司令部内では、残業確定組みがせっせと働いている。
 いつもなら、そのメンバーからロイが外れることは無いのだが、
今日は颯爽と帰って行ったのに、皆が羨むより驚いて、
書類の束を抱えて出てきた彼女に訊ねて来る。
「さぁ? 大佐も、エドワード君たちの帰りを、
 楽しみにされているという事じゃないかしら」
 言っている自分も、曖昧な答えだと思うが、ロイの普段と違う行動に、
特にそれ以上思い当たる節もなく、そう言って返答を濁すしかなかった。







 ***
 定時少し過ぎの時間なら、ロイが向かっている場所も、活気に溢れて盛況なようだ。 
いつもなら仕事以外で、こんな時間に立ち寄る事は勤務上難しい。
 だから大抵の買い物は、夜遅くまで開いている小さな雑貨屋か、
酒屋に併設されている食料品売り場で済ませている。

「ミルクは新しいものが必要だな。 レモンは要らないか」
 独り言を呟きながら、目に店を物色していく。 普段立ち寄らないせいか、目新しいものはついつい買い込んでしまいそうだ。
「おや?大佐、今日はどうかされたんですか?」
 熱心に並ぶ野菜を見ていると、査察で顔馴染みの主たちが
何事かと声を掛けてくる。
「いや、特に何かがあったと言うわけじゃないんだ。 
 不安がらせて済まないね」
 ロイが現れた事で、何か事件ではと思ったのだろう。
 仕事ではなく、私用で立ち寄っているのだと伝えると、
 皆一様にホッとした様子で、その後物珍しそうに話しかけてくる。
「そうですか、それは珍しい。 で、何が入用なんですか?」
 そう訊ねられて、思わず答えに詰まる。
 別に何が必要と思って立ち寄ったわけでもない事に、今更ながら気づく。
「そ・・・うだね、まぁ、まずはレタスかな?」
 買い物に来て、疑問口調になるのはおかしいが、
前回口にした物を思い出しながら、品物を上げていく。
「後は、トマトだろ。 それとキュウリ・・・、
スープにはジャガイモとキャベツだったか?」
 ロイが上げていく品物の名を聞きながら、店主はお薦めの品を取り出してくれる。
「朝ごはんのメニューですかね? フルーツとかは、いいんですか?」
 ロイは店主の言葉に、軽く驚く。 別に朝用と言った訳でもないのに、
品物から何故そんな事がわかったのだろう・・・。
 自分の返した言葉に、目を瞠って驚きを示している相手に、
店主は面白そうに種明かしをする。
「いやなに、ご自分が作られてるにしては、思い浮かべながらおっしゃってるんで、
彼女にでも作ってもらった物を思い出してるんでしょ? 
で、材料が凝ってないから、まぁ朝食用かなっと思いましてね」
 その言葉の中には、いいですねぇ、彼女に朝食を作ってもらう仲で、
の揶揄も含まれていたのだが、全然、そんな事に思い当たる事がなかったせいで、
聡いロイにしては珍しく、言葉どうり受け取り、頼りになりそうな店主に
色々と聞きながら、並ぶ品を薦められるがまま買って行く。

「朝食用とディナーでは、品物はだいぶん違うのかな」
 素朴な疑問を口にしたロイに、愛想の良い店主が笑いながら、
答えてくれる。
「そうですねぇ、別段品は変わらないでしょうが、
少々手間隙がかかるものも、夜には作るでしょ? 
サラダも、レタスとトマトがありゃー朝食なら格好も付きますが、
夜にそれだけだと寂しいでしょ。 皮を剥いて刻んだアボガトを入れても上手いし、
そこに小エビを茹でて入れれば豪勢になるし、
スープも時間をかけて煮るなら、シチューも作れますしね」
 この組み合わせなら、こんな料理が出来るだの、
これは食後にピッタリのフルーツだのと、説明される度に、
それを買って行くので、ロイが次の店に行くまでに、手に持つ荷物は、
かなり嵩張るものになっていた。
 その後肉屋や魚屋でも同様の講義を聞いて買い込み、帰る時には歩いて帰るのを諦めて、
車を使うことになってしまった。
 
 家に着くと、運転手にも手伝ってもらい、荷物を運び込む。
 上着を脱いでホッとしたのも束の間で、今度は買ってきた物を片付けなくてはいけない。 
冷蔵庫の中を覗いて、少々萎びてきてる野菜や、痛み始める前の品物を
無造作に袋に放り込んでいく。 そうやって、先に使われる事が稀のまま、
残っていた食料を退かせると、次には買ってきたばかりの品を並べていく。 結構な量があった為、片付けるのも時間を喰ったが、終わって、
冷蔵庫の中を眺めると、豊富な品揃えに、満足そうに頷いて、ビールを取り出してから扉を閉める。
 そして、一仕事終えた達成感に浸りながら、リビングに座ってから気が付く。
「そうだ・・・、夕食を買うのを忘れていたな・・・」
 今しがた買い込んだ材料を使えば、それこそどんな豪華な夕食も作れるだろうに、
それには考え及ばないのか、ロイは気乗りしない素振りで、
適当な配達先に電話して、デリバリーの夕食をアルコールで流し込みながら、終わらせてしまう。


 翌日。
 早め出勤してきたロイが、珍しくも逃げ出すことも無く、仕事に励んでいるのに、
ホークアイは機嫌良く、その他のメンバーは、窓から見える天候の行方を気にしながら、様子を伺っている。

「大佐、こっちの書類もお願いしますって、中尉からっす」
 ロイの精勤振りに、気味悪そうな様子を滲ませながら、ハボックが
追加の書類を運んでくる。
 いつもなら、ここで盛大なブーイングが八つ当たりのように投げられるのに。
「そこに置いておけ」
 と、渋面でちらりと一瞥しただけで、その後は関心もなく仕事に励んでいる。
『こりゃー、まじに明日は雨が降るかもな』
 そんな失礼な感想を思い浮かべながら、頭を掻きながら部屋を出ようとすると。
「ハボック」と背後から呼び止められる。
 内心、やはり不満を愚痴られるかと思いながら振り向くと。
「そこに置いてある物を持っていけ。 要る奴と分けろ」
 と、書類から顔も上げずに、それだけ告げると、それ以降はまた、
黙々と書類仕事に戻っていく。

「分けろ・・・、あぁ、お裾分けっすね! ありがとうございます、
皆助かってるんっすよ」
 ウキウキと、指された物を取り上げると、嬉しそうに皆の部屋に戻っていく。
「お~い、大佐からまた例のお裾分け~」
 ハボックが持ち上げた袋を見せると、皆がわらわらと寄ってくる。
「わー、助かりますぅ。 丁度、給料前なんで節約しなくちゃとか、
思ってた所なんですよね」
 フュリーが嬉しそうに、袋の中身を物色し始める。
 野菜に卵に、ハムに肉、鮮度は確かに落ちてはいるけど、
さすがに高給取りのロイが買うものだけあって、品質が高い為、
そこらの安物より断然味も品もいい。 
 ロイが何を思っての行動かはわからないのだが、月に二~三回のペースで、こういうお裾分けが廻ってくる。

「でもどうして、使わないんでしょうかね?」
 封さえ切られてない状態の物も結構有って、使わないなら買わなければ
良いのにと、皆で不思議がる。
「大佐の事だからさ。 店に可愛い女の子か、綺麗な女将さんでもいて、
それが目当てなんじゃないかぁ?」
 やっかみ少々のハボックの言葉は、誰にも賛同を得れなかった。
「バ~カ! それはお前だろうが。
 大佐には、そんな手間かける必要もないだろうが」
「そうですよね。 それにどちらかと言うと、
 大佐がお付き合いされている方達って、お金持ちの方が多そうですもんね」
 すげない皆の返答に、不貞腐れながら、ハボックがムキになって言い返す。
「んじゃー、一体何で使わないのに買うんだよ! 
 店の姉ちゃん目当てじゃなきゃー、おかしいじゃないかよ」

 そのハボックの言葉には納得は出来ないが、確かに変わった行動ではある。
「使うのが目的ではないなら、買うのが目的と考えるのは妥当ですな」
 そのファルマンの言葉に、そらみろとハボックが胸を張ってみせる。
 皆が、上司の奇行を怪しんで頭を捻っている最中。
「あら、別に使う以外が、買うだけ、じゃないわよ?」
 と、それまで参加していなかった方向から、声が加わってくる。
「中尉?」
 驚いたような視線が集まる中、それを気にする事無く、
 リザは別の可能性を上げる。
「使うのではなくて、使ってもらえるように、揃えていらっしゃるのかも知れないでしょ?」

「「「使ってもらう為~! 誰にー!」」」
「さぁ? そこまでは、私も大佐のプライベートを知ってるわけじゃないから」
 それだけ告げると、後は関心ないとばかりに、自分の仕事に戻る彼女に、
皆が腕組み納得を示す。
 彼女の言葉には、確証は無いのに、妙に信憑性が高い気がしてくるのは、
相手がやはり勘に鋭い女性だからだろうか。

「そっか、そういう線もありだよな」
「でも、その割にはあんまり使われてませんよね?」
「いや、逆に他の日は使ってて、使わない日の分だけ持ってきてるとも、
考えられるよな」
「そうか・・、それか使い切れなかった分とか・・・」
 そんな風に意見を言い合っていると、一つの疑惑が持ち上がってくる。

「「「で、一体それは誰なんだ!!」」」

 東方司令部の直属のメンバー達が、その後、その件で大いに盛り上がったのは、当然だろう。
 色々な疑惑が舞飛ぶ中、自分が持ち込んだ食料が、そんな大きな問題に
発展している事なぞわからずに、ロイはひたすら目の前の書類と格闘していた。
 
 そしてその頃、移動中のエドワードは・・・。
「ヘ~クション!!」
「何、兄さん? もしかして、風邪ひいたの?」
 心配そうに、大きな身体を屈ませて、自分を伺ってくる弟に、
全~然と示すように、手の平を上向け、肩を竦めて返す。
「体調は万全だぜ? またどっかの奴らが、俺の事を褒めちぎってんじゃないのか」
 闊、闊と胸を張りながら、笑っていると。
「ヘックシュン、クシュン!!」
 連続して、盛大なくしゃみが飛び出した。
「・・・褒められじゃなくて、謗られ・・・かも知れないね」
 そんな可愛げない感想を言う弟に、抗議の声を上げながら、
駅への道を歩いていた。

「兄さん、昨日の宿の女将さんに、熱心に何を教わってたの?」
 文献や資料以外で、興味を示す物が少ないエドワードが、
珍しく教わりに行くような事が有っただろうか?
 そんな弟の疑問に答える事も無く。
「う~ん・・・。 別に対した事じゃないぜ」
 そう返すと、サッサと道を進んでいく。
「えぇ~。 対したこと無いんなら、教えてくれたっていいじゃない」
 弟の不満そうな声を聞き流しながら、ポケットに入れている研究手帳を思い起こす。
 正確には、その手帳に挟んでいる、女将から教わった料理のレシピメモだ。
『材料揃えないと、作れないよなぁ』
 大佐の家の、中身乏しい冷蔵庫では、あんな凝った料理は作れそうも無い。 かと言って、自分が材料を買い揃えてまで作るのも、何かおかしい感じもするし・・・。
 
 そんな、気まぐれ心の自分の行動に、内心首を傾げながら、東方への道を進んでいく。



《あとがき》
金猫の恩返しのOFF版です。
本当は初夏あたりにと思っていたのですが、
更新がおくれてしまっているので、取り合えず
何かアップをと・・・。
鋼アニメスタート1週間を切ったと言うのに
時間の無さは切ないね・・・。(T.T)





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